2012年4月、福井大学に大阪大学大学院連合小児発達学研究科・福井校が開設されてから、早くも13年目を迎えました。この研究科のミッションは「子どものこころの諸問題に対応できる高度専門家の育成」です。これまで福井校では早期修了者2名を含む21名が博士号を取得し、さらに学位取得者から初めて医学部に教授を輩出するなどの成果を上げてまいりました。
連合小児発達学研究科の設立後、「子どものこころの諸問題」をめぐる環境には大きな変化がありました。その筆頭が2013年の DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders) の改訂です。これは米国精神医学会によって作成された、精神疾患の診断に用いられる世界標準の診断基準で、最新版が第5版になります。精神疾患の大部分は原因の解明が十分に進んでいないために、診断のための明確で客観的な生物学的指標(バイオマーカー)が存在しません。今後も精神疾患の診断基準は脳科学の発展をベースに書き換えられていくのは必定であり、「子どものこころ」の診療・支援・教育に携わる者には、より科学的視点が要求されます。
こうした情勢にあって連合小児発達学研究科は「科学的根拠に基づいた子どものこころに関する専門的知識」をもった専門家を養成する大学院博士課程として設立されました。学校教員や医療従事者、社会福祉行政に従事されている方を対象に、文系理系の垣根を越えた「文理融合型プラットフォーム」によって子どものこころの諸問題に対応する人材を育成するのが特色です。講師陣には、連合小児に加盟する5大学の脳科学・心理学・教育学および小児科学・精神医学の専門家が名を連ね、どの大学の講師の講義でも、全ての大学院生がオンラインで受講できます。博士後期課程では、所定の単位を取得して、志望する講座で研究指導を受けたのち、研究論文の審査に合格すると大阪大学の「小児発達学博士号」が取得できます。2024年度からは「小児発達学修士号」を取得できる博士前期課程も設置されました。
連合小児発達学研究科では「子どものこころ」の科学を学んで研究者を目指したい方、社会で「子どものこころ」の問題に直面しながら有用な知識を得たい方など、「子どものこころ」に広く関心を持つ方の入学を歓迎します。ただ大学院は学問の世界ですから、必ずしも楽観的なことばかりは言えません。正直険しい道のりですが、関心のある方はぜひ門戸を叩いてください。私が責任を持って 5大学の様々な講座の中からその方のニーズに応じた選択肢を提供します。その上で福井校を選んでもらえるなら、これに勝る喜びはありません。ちなみに私のモットーは「人生楽しく」です。
連合小児発達学研究科副研究科長・福井校代表
松﨑 秀夫