福井大学子どものこころの発達研究センター
佐藤 真
日本の将来を担う子どもの健やかな成長を助け、その力を十分に引き出すことは、大学の重要な使命です。特に、少子化による人口減少時代を迎え、本格的な取り組みが従来にも増して求められています。とりわけ「学力」のみならず、他人と付き合い人生を乗り切る「たくましさ」や、他人の気持ちを理解し関わりを持ち、同時に自分のこころの問題を処理する「こころの知能(「情動知能」)」の育みは重要です。
個人の能力は「脳」の働きによっています。それ故、育みを「科学する」には、「脳科学」の視点は欠かすことができません。「脳科学」の立場から発達の仕組みを明らかにし、その知識の下、能力開発や教育法の改良を目指す研究は、今後ますます重要になっていくと思われます。
福井大学では、従来から「脳の発達の仕組み」の解明や「子どものこころ」の諸問題に取り組んできました。文部科学省等の支援を受け、平成15年度より5年間にわたり21世紀COEプログラム「生体画像医学の統合研究プログラム」を実施し、平成19年度には「子どものこころの成長に関する基盤整備事業」を、さらに平成21年度から3年間にわたり「脳機能ネットワークの形成・発達の解明とその活用」事業を、大学を挙げ実施してまいりました。
そのような中、平成21年9月に、子どものこころの問題を解明し、さらには治療・支援するための研究・諸活動を行うことを目的とし、福井大学大学院医学系研究科附属「子どもの発達研究センター」が設置され、人員の配置された実質的な組織として、平成23年4月より本格的な活動をスタートさせています。
本センターでは、脳の発達の分子・細胞レベルでの研究、ヒトの脳の活動を可視化し脳の機能的発達を追う研究、さらには発達障害やうつ病の成因を、環境との関連も含め明らかにするための研究を行っています。さらに、教育現場への還元を図る研究や、附属病院「子どものこころ診療部」と手を携え、子どもの問題行動への対処法や、子どもを取り巻く養育者に目を向けた研究も実施しています。同時に、子どものこころの問題に関する地域ネットワークの構築にも力を入れ、地域の皆様と解決に向け糸口を探ります。これら諸分野の統合を積極的に図り、現場への展開を重視した活動を実施してまいります。
一方で、全国的に見ますと、平成18年度から大阪大学と浜松医科大学が、さらには平成20年度からは金沢大学が参加し、3大学連携融合事業にて「大阪大学・金沢大学・浜松医科大学子どものこころの発達研究センター」が立ち上がり、子どものこころのひずみについての原因解明に医学的に取り組み、大きな成果を挙げてこられました。
そこで、All Japanの教育研究体制にて子どものこころの諸問題の解決に取り組むべく、平成23年4月より福井大学は千葉大学と共に、この3大学「子どものこころの発達研究センター」に、連携融合事業として新たに参画いたしました。これは、福井大学にとり全国的な規模での研究が遂行できる基盤になるとともに、既存の3大学にとっても、福井大学・千葉大学の実績と特色を取り入れ、より高い水準での事業実施を可能とするものです。さらには、平成24年度より、5大学が連携し、学際的見地に立脚した「連合小児発達学研究科」を開設しております。この「連合小児発達学研究科」とも手を携え、今後とも「子どものこころ」の専門家の育成に努める所存です。
あわせて、医学系研究科附属子どもの発達研究センターは、平成24年4月より、福井大学の全学センターに組織替えとなり、新たに「子どものこころの発達研究センター」となりました。これは、「脳」や「こころ」の研究に、福井大学全学の力を結集し取り組むべくことを意図したものです。
「脳」が関わる学術分野は大変広く、全ての学問領域が関連するといっても過言ではありません。「脳」は人の営みの実体であり、ヒトをヒトたらしめている実体ともいえるでしょう。本センターでは、当初参加予定の学内構成員のみならず、学内外広く関連する方々の参加をも募り、その実施に努める所存です。少しでも良い形での活動が実施できますよう広くご理解を賜ることができれば幸甚です。