養育困難な母親における児童期のマルトリートメント(CM)経験が共感性および子育てスタイルに与える影響 〜CMの世代間連鎖との関連〜

大阪大学大学院連合小児発達学研究科福井校の川口優子院生と、福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授らの研究チームは、親自身の幼少期におけるマルトリートメント(以下、マルトリ)経験が、その後の共感性の発達に影響を及ぼし、共感性の変容を通じて、自らの子どもに対するマルトリリスクが高まる可能性を明らかにしました。

共感性は、親が子どもの感情や心理状態を適切に理解し、対応するために不可欠な心理的機能であり、養育行動の質と密接に関連しています。そのため、共感性に障害があると、子どもの発達を支える関わりが困難になり、親子関係や対人関係の質が低下し、結果として育児困難やマルトリ発生リスクの増加につながると考えられます。

本研究では、自身の子どもに対してマルトリを行った経験のある親(マルトリ群:13名)と、そうした経験のない親(非マルトリ群:42名)を対象に、共感性の特性にどのような違いがあるのかを比較検討しました。その結果、マルトリ群の親は、非マルトリ群と比べて、幼少期に重度のマルトリを受けていた割合が有意に高く、特に情動的共感性(他者の感情に過剰に影響されやすい特性)が高い傾向にあることが明らかになりました。

さらに、こうした情動的共感性の高さは、母親の抑うつ症状の悪化と有意に関連しており、それが子育て行動に影響を及ぼし、結果として子どもへのマルトリにつながる心理的・行動的メカニズム(世代間連鎖)が示唆されました。

これらの知見は、親のマルトリ経験が共感性の在り方を変化させ、それがマルトリの世代間連鎖に関与している可能性を示す重要な示唆となります。

Kawaguchi Y, Kurata S, Kawata NYS, Yao A, Nishitani S, Fujisawa TX, Tomoda A. Effects of childhood maltreatment on mothers’ empathy and parenting styles in intergenerational transmission. Sci Rep. 2025 Mar 5;15(1):7787. doi: 10.1038/s41598-025-92804-0.

 

詳しくはこちらをご覧ください